製造工程において加熱は、重要な工程であることについては、お解かりのことと思います。
ただし、意外と加熱技術はおざなりにされているケースが多く見受けられます。
現在の加熱においては、電力量の削減・省スペース化など環境に配慮しつつ生産スピードの向上を目指すという相反する
内容を解決していかなければならず、より効率の良い加熱方法が求められております。
さらに昨今ではCO2排出量削減に伴い、非接触でクリーンな電気ヒーターということで、赤外線加熱が注目されておりますが、
失礼ながら、赤外線ヒーターの特性を理解されてないケースが多々ございます。
特に家庭用暖房機等で使用されているためか 『遠赤外線は内側から温まる』という誤解や
ひとつの選定基準である、吸収波長だけに注目してヒーターを比較検討してしまう
ことなどが見受けられます。
赤外線ヒーターと一口に言っても様々な種類があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。その正しい比較検討が赤外線加熱の計画、導入について90%以上の成否をにぎっているといっても
過言でないと考えております。
しかしながら、教科書的な赤外線加熱理論は、世の中にありますが、
実践的な赤外線加熱の検討方法について説明したものは、ほとんどないのが現状です。
赤外線ヒーターの特性を考え、正しく比較評価出来、適切なヒーターを選定する方法について
手がかりの一旦となれば幸に存じます。
赤外線加熱とは・・・・・
電磁波の一種 : 赤外線が照射されることで、加熱対象物が分子レベルで振動し、その振動が摩擦熱となり、温度が上昇するというメカニズムです。民生品に限らず、工業・産業用としても広く用いられています。
まず、ヒーター側から見た有効な赤外線エネルギーという点から説明いたします。
熱源温度により放射される赤外線のピーク波長がわかります。
これは以下の、ウィーンの変位則から求められます。
λ=2897/T T=℃+273
E ∝ (T14-T24)
ステファン・ボルツマンの法則
また、ヒーター熱源温度以上に加熱対象物を加熱することはできません。少なくとも加熱目標温度以上の熱源温度になる
ヒーターを選定する必要があります。
ヒーターから放射される赤外線エネルギー量という点から見た場合
近赤外線 > 中赤外線 > 遠赤外線 の順になります。
次に対象物側からみた、より有効にエネルギーを吸収するという点で話をすすめていきます。
赤外線加熱において一番誤解されていることですが、赤外線加熱はあたかも対象物の中から
加熱されると思われている方がいらっしゃいますが、それは誤解です。
実際には照射面の表面から吸収・温度上昇しますので、照射面(表面)と裏側の温度を測定すると
照射面(表面)の温度の方が高くなります。(厚み・材質・色等により異なります)
他の加熱方式、伝導、対流と比較すればわずかながら赤外線の方が内部浸透しますが、
ほとんどの場合、表面(照射面の吸収・発熱)からの熱伝導による内部浸透の方が大きな要素になります。
各赤外線波長の透過性(表面と裏面の温度差がより少ない)といことであれば、
近赤外線 > 中赤外線 > 遠赤外線 の順になります。
これは、遠赤外線よりも波長の短い近赤外線のほうが、より透過するということです。
「どの波長がどの材質に対して吸収が良いか」と言うことですが、一般的に遠赤外線はセラミック系の吸収が良く、
中赤外線はガラス・樹脂系の吸収が良く、近赤外線は金属の吸収が良くなります。また、材質の表面状態によっても吸収がかわります。
表面が鏡面状態よりも、凸凹の方が吸収されやすいです。
吸収率が高い = 熱に変換されやすい
透過についてですが、これは単純な方法ですが、太陽光に対象物を当ててどれだけ光が漏れるかを考えると、イメージしやすいと思います。
特に波長が短くなるにつれ、材質の色に影響されて来ます。(透明色は透過、白色は反射、黒色は吸収されます。この傾向は赤外線波長が短い近赤外線のほうが強く影響されます)
また、厚い樹脂・ガラス等を厚み方向に均一に加熱される場合、透過率の高い近赤外線を使用すると表面と裏面の温度差が少なくなります。
さらに、近赤外線ヒーターの場合、ガラス越しに加熱するという応用も可能です。
透過率が高い = 熱に変換されにくい
同材質のものを比較した場合、対象物の表面状態、材質、色によって異なります。
表面状態については、鏡面状のほうが反射率は高いです。
色については、上記透過にて説明いたしました通りです。材質については金属、特に非鉄系のものは反射しやすい特性があります。
反射率が高い = 熱に変換されにくい
ヒーターを単純に点灯させても360°に赤外線を放射しますが、反射鏡に入れ、照射面に対して指向性をつけることにより、効率が上がります。
これは、赤外線エネルギーをより対象物に照射する点において有効な手段です。
反射面の材質も重要です。金、銀、銅、アルミなどは、赤外線の反射率が高いです。
反射鏡にSUSが多く使われているようですが、反射率が落ちますのであまりお薦めできません。
また、近赤外線ヒーターは、反射鏡の形状により集光させることも可能です。
赤外線エネルギーをどれだけ効率的に照射できるかということは、急速に加熱する、省エネという点からも非常に重要です。
パネル型遠赤外線ヒーターやシーズヒーター等は、熱源そのものが外気に触れ、熱を奪われてしまうため、外乱を受けやすい構造です。 一方、近赤外線ヒーター、ハロゲンランプヒーター等は、石英ガラスに熱源(フィラメント)が覆われており、外乱を受けにくい構造となっています。
ヒーターの立ち上がりについては、省エネという点から非常に重要です。
各々の立ち上がりスピードは、近赤外線ヒーターが2秒以上、
中赤外線ヒーターが2分程度、遠赤外線ヒーター(セラミックパネル型)が10分以上となります。
尚、中赤外線ヒーターのカーボンを熱源にしたヒーターは3秒程度で立ち上がります。
また、従来あまり重要視されていませんが、立ち下り性能も非常に重要となります。
例えば、設備上で何か不具合が生じた時に、すぐにヒーターを止められることは安全面から
言って、とても大切なことです。
そして、加熱性能からみて温度コントロールという面でも、非常に重要な役割を果たしています。
加熱対象物の目標温度が高ければ高いほど、加熱中の外乱を十分に考慮する必要があります。それは、温度が高いほど放熱量も大きくなるためです。 また、均熱性という点に関してから、端部は中心部より冷却が早いのでヒーターのサイズや配列、 ヒーター制御、加熱対象物の保持方法等を考慮することが必要となります。
最後に
以上、赤外線ヒーターを選定するにあたり、重要な5項目について説明させて
頂きました。
最後にもう一点重要な要素がございます。
これは、加熱時間とヒーター設置スペースとコストのバランスです。
限られたスペースで目標温度までより早く加熱されたい場合、エネルギー密度 w/cm2 の高いヒーターが必要となります。一方、イニシャルコスト的には、遠赤外線、中赤外線、近赤外線の順で、高くなっていく傾向にあります。
イニシャルコスト(設備導入時)が安価で、ランニングコストも安いものがいいのですが、
実際に対象物を限られた条件のなかで、目標温度まで加熱出来なければ意味が
ありません。そこで、要望とされる条件:目標温度、時間から、ある程度判断できる熱量計算方法を
お知らせします。但しこれは、対象物がヒーターから放射された赤外線が100%吸収されることを前提に熱量を計算します。
P = (m・Cp・(T1-T0) ) / t
P :電力(W) T0:加熱前温度(K)
m :重量(kg) T1:加熱すべき温度(K)
Cp:比熱(J/(kg・K)) t:加熱時間(s)
この数式より割り出された数値に下記の係数(弊社の実績から導き出した
赤外線吸収率)をかければ、各種ヒーターにおける必要なヒーター出力計算が可能となります。
各赤外線波長の対象物に対しての吸収率
各赤外線ヒーターの比較表